β設立のご挨拶、あるいはそのβ版。

 

一冊刊行する前に設立の挨拶をしたところで空虚だろうと考えていた。

 

案の定、一冊目の刊行にかなり時間がかかってしまい、おかげで挨拶だけ掲げて何か月も音沙汰ナシといった格好の悪い思いをすることはなかったが、逆に今さら間の抜けた感じで挨拶差し上げる羽目にもなっている。

 

βは言わずと知れたギリシア語α(アルファ)の次、2番目の文字である。ソフトウェアなどでは完成間近のテスト版をベータ版と呼ぶことが多いので、そちらでなんとなくなじみ深い方も多いかもしれない。そうなると、なぜエディションベータなのか、お客様に届けるのは完成形ではないのか、一番目ではないのかと思われるかもしれないが、商品として一番良い完成形をお届けするのは当然のことで、実はこのベータは制作過程の品質レベルを示しているのではない。

アイテムの立ち位置としてのベータである。

 

いったい、出版社を興そうとする人はそれぞれ理想とするところがあって、目指すものも千差万別だと思う。僕の場合はひとことで言ってしまえば「開かれた宇宙を魅力的に表現してくれる書物を創造したい」という点に尽きる。そして、乱暴に書いてしまうと、宇宙の開かれ方も魅力も、何一つ固定的なものはなく、生々流転する融通無碍の美徳である。

これまで読んだ素晴らしい本はすべて僕に新たな世界の広がりを示してくれた。まだ見ぬ世界を新たに知り、思いも及ばぬ感覚をもたらしてくれた。それらはまた読むタイミングしだいで僕の中に異なる感覚を想起させ、蓄積された経験、その時々の感情や社会情勢で様々な読み方ができたのもまた事実だ。

とすれば、素晴らしい書物があったとして、それは読者があってこそだ。

完成形のこの本は、この書物だけではβであって、誰かが読んでその人の認識にある種の世界観を醸成して初めて書物として完成に至る。というか、存在意義を満たす。

 

僕はあらゆる可能性を愛せる人に愛される、開かれたベータ版の書物を力の限り作り続けたいと思う。

読み終わって何かが心に残る、何か一つ言ってみたくなる、どこかへ歩き出してみたくなる、そんな本だ。

そして、皆さんに読んでいただき、皆さんに完成していただきたい。

The final edition is in yourself!

ぜひ、弊社刊行の書籍にご期待ください。

そして、この小さな出版社が存続できるよう、心の片隅で応援よろしくお願いします!

 

 

Editionβ Y.